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あまりに静かな日本社会 いったい、欧州の農民たちは何に憤激しているのか?


日本のマスメディアではほとんどなく見聞きすることがなく、もっぱらNHKのBS1の「ワールドニュース」を頼らざるをえないのが寂しいところですが、2023年末からドイツ、フランス、イタリア、ポーランド、オランダ、ギリシア、ベルギー、ルーマニアの農民が各国政府に対する激しい抗議行動を展開しています。彼らが強く改善を求めている課題は「環境規制」をはじめ、農業を「いのち」の源と位置付けた従来の「農業保護制度」を大きく後退させかねない官僚主導の緊縮財政政策など多岐にわたるものです。

ベルギー、フランス、ドイツ、スペイン、ギリシアでも
理由は輸入の増大、長期の価格低迷、所得補償の切り詰め策

まさしく堪忍(かんにん)袋の緒が切れたように炸裂したEU(欧州共同体)加盟国の農民の憤怒は、年明けの2024年1月から一層激しさを増しました。ベルギーでは農民が首都ブリュッセルにある欧州議会の建物周囲を占拠し、建物に卵を投げつけたり、路上で火を燃やしたりする行動に出ます。その日、建物内ではウクライナ情勢への対応を主たるテーマとするEU首脳会議の開催されていました。さらにフランスではパリやリオンやトゥルーズなどへと続く主要幹線道路を農民たちが農業用大型トラクターなどで封鎖し、家畜のし尿をぶちまけるという猛烈かつ大胆な意思表示に打って出ました。この行動は少なからぬフランス国民に深い共感をもって受け止められたようで、幹線道路を封鎖するトラクターに乗った農民にパンや飲み物を差し入れる人、なかには「迷惑?とんでもない!デモは彼ら農民の当然の権利。それは私たち自身の権利保障にも関わる重要なこと」と明言するパリ市民もいました。同様の抗議行動がギリシアにスペイン、ドイツでも展開されたのです。

ではいったい何が、そこまで欧州各国の農民たちの怒りを駆り立て、たとえ警棒で殴られたうえに催涙ガスを浴びせかけられ、場合によっては警察署に連行されても「もはや黙って座視してはおられない」と必死の行動に向かわせたのかものは何かを改めて考えてみたいと思います。まず、今回の抗議行動に参加している農民が異口同音に主張しているのが「我々はだれ一人として、日々の労働に見合った賃金の支払いを受けていない。にもかかわらず、税金はしっかりと徴収され、農業所得補償制度を利用するには煩雑で手間がかかる認証申請のための書類を作成し、役所に提出しなければならない。そんな官僚主義的手続きに耐え続けろというのか」ということ。どうやら、その保障申請に不可欠な認証ビジネスの負の影響もありそうです。

また、欧州議会の建物を取り囲んだベルギーの農家のように「EU主導で各国政府に輸入量が割当られ、しかも関税免除とされているウクライナ産の農産物が大量に輸入されている。ウクライナ国民の直面している苦しみは理解できるが、このまま自分たちの生産する作物が販路を失えば、とても暮らして行けなくなる」という深刻な危機感も共通したものとなっていると聞きました。こうした訴えにEU委員会は、2024年1月末<ウクライナからの農産物輸入を制限するため、最も域内各国の農家への影響が出やすい鶏肉、鶏卵、砂糖については輸入が一定程度以上を超えたら輸入制限を実施する>と加盟国に提案しました。いわゆるセーフガードの発動ですが、農家は「それでも輸入が多すぎる」と納得していないようです。

農地の4パーセントを一定期間休耕地にせよ
農業用トラクターのディーゼル燃料大高騰はコスト補てん無し

まだあります。EUは「ファーム・トゥ・フォーク(農場から食卓まで)」と呼ばれる地球環境にやさしく、気候危機回避のための農業推進政策を採用し、有機・減農薬・無農薬で農業が実践されていると認証した農地を域内全体の25パーセントにまで高めるといった実に大胆かつ野心的な目標の達成に向かって動いています。むろん、その方向性が間違っているとはいいませんが、その短兵急さというか過度な一元化というか、社会実装をあまりに急ぎすぎる感が強くなってきている点に農民たちは強く反発しているのです。EUは<各農家が保有する農地の4パーセントを一定期間休耕地にしなければ、従来通りの助成金を支給しない>という新たな義務を課した農業助成制度を導入しました。これに農家が強く異議を唱えたのです。対してEUは「わかった。一定の休耕地を確保する義務は免除する。その代わりに農薬を一切散布せずに作物を栽培する必要がある」としたため、それが農家の怒りの火に油を注ぐことになったのです。

もう一つあります。EUの農業を支えるドイツとフランスという「2巨頭・農業大国」では、気候危機対策の根幹とされる温暖化ガス対策の一環として、農業用ディーゼル燃料への助成金支給と農業者向けの減税措置の打ち切り計画が浮上しました。これに農民が大反発したわけです。一連の事態を重く見た両国政府は速やかに計画を撤回しています。といっても農民の怒りが完全に収束したわけではなく、いまもギリシアの農民はディーゼル燃料税の引き下げを求め続けている(2024年2月4日現在)と報じられました。

以上が欧州の農民たちがやむにやまれぬ抗議行動に踏み切った理由です。まずは農産物価格の低迷があります。輸入農産物の急増に急激な環境保護・気候危機対策の社会実装。おまけに温暖化対策のための化石燃料の使用制限を一方的な上意下達方式で決め、それに従わないのなら助成を縮小すると威圧するような「官僚主義的政治」の横行に彼らは敢然と異議を主張し、その勇気ある行為をリスペクト(敬意を評し)しアプローズ(たたえる)する消費者が少なからず欧州には存在したということでしょう。これが日本で起きたことであったら、どうであったかと自問せざるを得ません。実はすでに欧州の農民たちが自身の「身」を顧みず、徹底的に抗議を続け、欧州会議とEU委員会、自国政府に「見直し」を求めた事態が日本でも進行しつつあります。

「脱炭素政策をめぐり、二酸化炭素とメタンガスの排出量が多いという理由から、稲作や畑作、畜産に酪農が環境破壊の元凶のように容易に決めつけた言説が急速に幅を利かせるようになってきた。ならば環境にやさしい農業に変えればいいと、ただでさえ欧米と比べれば少ない農業助成金をさらに減額する政策を日本政府は実行しようとしているとしか思えません」と厳しい口調で指摘するのは東大大学院教授で農業経済学が専門の鈴木宣弘さん。「要するに温暖化対策ができないような農家に助成措置など無用というのかと毒づきたくなるような農政転換です。そんな農家は勝手に廃業すればいいし、その気になったのなら手切れ金くらいは出してやるといわんばかりの状況に日本の農家は立たされていると私は見ています。何とも不愉快極まりない一刀両断的な措置ではないですか」と疑問を呈します。

農業は「ジェノサイド」ならぬ「エコサイド」産業?
全自動無人野菜工場にフードテックこそ環境にやさしい?

改革とは常に痛みを伴うものという常套句(じょうとうく)は安易に受け入れられがちですが、そんなローラーで塗りつぶすような荒療治は劇薬ともなり、長い歴史のなかで培われてきた重要かつ大切な技能に技術、文化や伝統を根こそぎ破壊してしまう力を持つことを歴史は雄弁に物語っています。「いま最も求められているのは段階を踏まえたダイバーシティ(多種多用)な農政でしょう。切に求められるのは農家の実態実状にあった転換のはずです。にもかかわらず、君ら(農家)はどうやってもダメだからやめてもらうしかない。牛のゲップは二酸化炭素の3倍もの悪影響があり、水田から発生するメタンガスが最大の汚染源だから、酪農も畜産も稲作も即座にやめさせてはどうかとバイエル社のCEO(最高幹部)がスイスで2024年に開催されたダボス会議で自説を堂々と主張しています。本当に心の底からフツフツと怒りが湧いてきます」と鈴木さんは厳として訴えます。

鈴木さんの言葉通り「水田を畑地に変えなさい。そうしなければ助成金は受けられない」「有機堆肥を使うなら事業者登録をして、登録番号をもらいなさい。その番号を正しく申告しなければ、有機堆肥を使っていても助成対象と認めません」と行政担当者から厳しく指導されたと話す農家が増えているのも事実です。さらに「農業はエコサイド。大量虐殺を意味するジェノサイドをもじってエコサイドとまでダボス会議では評されてしまいました」とは語気を強めます。だとすれば、人が生きていくための糧はどんな方法で得ればいいというのでしょうか。「彼らはフードテック(食品加工最先端技術)で解決すればいいと考えているのではないでしょうか。コメと野菜は完全に無人化された工場、魚はゲノム編集魚の陸上養殖、卵は植物性タンパク質と人工油脂に着色料にフレーバーの合成加工、肉類は養殖コオロギを中心とする昆虫の加工品……。これなら環境にやさしく、温暖化ガスも発生しないという考え方に立っているのではないでしょうか」が鈴木さんからの答えでした。

この指摘を「陰謀論」と受け止め、「そんなバカな」あるいは「まさか、そんなことになるわけない」という声が少なくないのは知っています。そうかもしれません。しかし、一つ重要なのは「そんなことになってほしくない」というのが多くの人に共通した願いではないかということです。この問題にすぐに白黒付ける必要もなく、そんなことはできようもないのですから、鈴木さんの問いかけは「いま」を生きる者に投げかけられた、未来を左右するような大命題であるとだけ認識し、おおぜいで答えを見つけていくしかないでしょう。こう鈴木さんは力を込めて言い切ります。

「すでに日本政府は農家にみどりの食料システム戦略を遂行し、田んぼに水を張るなと言い始めています。これに何を言うかと多くの農家が反発しているのも事実です。そんなまねをしたら、それこそ自然の摂理に反すると彼らは怒り心頭です。おまけに田んぼをつぶして林野に戻せば金を出す。RNA農薬とゲノム編集したコメのタネを使えば有機として認定してもいいくらいの話まで進めているのですから開いた口がふさがりません。

そんなことより、目先の今だけ金だけ自分だけの効率最優先ではなく、人々が地域で幸せに暮らしていけるための自然の摂理に従い、生態系の力を最大限に引き出し、環境にも生物にも無理の無い本質的な意味で効率のいい方法の獲得に意をつくすべきでしょう。となれば、高度経済成長期以前の日本型農業の長所を現代風にアレンジする、リニューアルするのが一番だと私は考えています。そして、コミュニティ(地域共同体)を大事にし、みんなで協力しながら取り組む農林水産業の再興こそ最先端ということを再確認する必要があるし、そう私は社会に提案し続けていきます」


撮影/魚本勝之 取材・文/生活クラブ連合会 山田衛

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