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ドラマ「セクシー田中さん」が描く「生きづらさ」 若き彼女・彼らに「いい子」たれと迫るのは――

【連載コラム】何気ない日々の向こうに――第11回 朝日新聞編集委員 高橋純子さん


推定4人の読者のみなさまこんにちは……って言ってもいま朝ですけどね。モーレツに朝。デスク脇のテレビでは「暴れん坊将軍」の再放送をやってます。松平健、若い。殺陣(たて)が抜群にうまい。後年、サンバで一世を風靡することになることを、この時の健は知るよしもなかった……。

さて私、実はテレビドラマ好きで、見逃し配信も利用しながら追いかけ、各クールごとにナンバー1を決めています。今クールはダントツで「セクシー田中さん」(日本テレビ系)。「経理部のAI」の異名を取る優秀な会社員だけど、友人はおらず、至って地味な〝アラフォー女〟の田中さん。同じ会社で派遣社員として働く朱里は、ひょんなことから田中さんがセクシーなベリーダンサーとして活動していることを知り、自らの生き方も変えていく――。あらすじはざっとこんな感じ。芦原妃名子の漫画が原作で、相沢友子が脚本を手がけるラブコメディだが、この社会を生きる若い世代、とりわけ女性の生きづらさがしっかりと、でも重たくなく描き出されていて素晴らしい。

婚活中の朱里は容姿に恵まれ、コミュニケーション能力も高いため、「遊んでる」「男に媚びている」といつも勝手に決めつけられるのだが、自己評価はおそろしく低い。婚活に励むのは「初めてもらった給料明細を見た時、一生一人では生き抜けないと思った」からで、「幸せになりたいなんて思ってない。最悪不幸にならないためのリスクヘッジがしたいだけ」。自分が男の人にちやほやされるのは「若くて適度にバカそう」だからと分析する。男性との飲み会では、飲み物に「何か」を入れられたり、友人がそれで危ない目に合ったりしたので、よく知らない男性と二人きりで会うときには、知っている店にしか行かないなど警戒を怠るわけにはいかない。つらい。
 

そんな朱里は、「自分は自分、他人は他人」と生きられる田中さんに憧れ、彼女がステージで踊る姿を見ながら、ある言葉を反芻(はんすう)し、涙ぐむ。

「私たちはまだ、あの、もっとも高いガラスの天井を打ち破ってはいません。でも、いつの日か、誰かが成し遂げてくれるでしょう。きっと、私たちが思うよりも早く。そして、これを見ているすべての少女たちへ。あなたたちには価値があり、あなたの夢を追い求め、かなえるために、この世のあらゆるチャンスが与えられていることを信じて下さい」

アメリカ大統領選でトランプ氏に敗れた、ヒラリー・クリントン氏のスピーチだ。
リアルタイムで私も聴き、心を震わせた。けれど、こうやって7年後、異国のドラマに織り込まれるとは――。それほど多くの少女を励まし、心の支えにすらなってきたスピーチだったのだと、改めて感じ入る。

ただ、それは裏を返せば、この日本にはヒラリー氏のようなロールモデルもいなければ、若い女性たちを励ます言葉を持つ政治家も見当たらないということだ。
「女性はいくらでもウソをつける」。自民党の杉田水脈衆院議員の発言である。
終わってる。まだ始まってもいないのに、どうしようもなく終わっている。
この国で必死に生きている朱里が、自らを慰め、心を奮い立たせるためにヒラリー氏の演説動画を見ているシーンに、ドラマとはいえ、一抹の寂しさと申し訳なさを覚えた。


 

 
タレントの生見愛瑠(ぬくみ・める)さんが、朱里役を好演している。彼女はまさに、バラエティ番組などで「めるる」と呼ばれて「ちやほや」されていた。きゃぴきゃぴと音がしそうな彼女の言動に、私は正直、嫌悪感を抱いていたのだが、おそらく彼女も、圧倒的に男性が仕切ることが多いバラエティ番組で求められる「めるる」の役割と、生身の生見愛瑠との間で葛藤があったのだろう。実に生き生きと朱里を演じている。若くてかわいくて、男たちにちやほやされているという一面だけを捉えて、私も無意識のうちに「レッテル」を貼っていたってことだよな。彼女のきらめく才能に気づけなかった己の不明を恥じる。

レッテルと言えば、本邦の若者たちは「政治に無関心だ」「おとなしすぎる」などと批判されがちだ。しかし――私はたまに大学の授業を1コマ持たせてもらうことがあるのだが――「びくびく」生きている多くの学生を目の当たりし、毎度驚かされる。

ある有名大学では、ひとりの女子学生が「授業で質問したいことがあっても、他の人はその質問の答えを聞きたいかわからないので、質問することは自己中心的な行為なのではないかと思って、躊躇してしまう」と話してくれた。自分の頭で考える、自分の言葉で語る、これは学問の基本の「き」のはずなのに、彼女・彼らはなんと不自由な世界を生きていることか。これはひとえに、われわれ大人の責任である。

「出る杭」を叩きまくり、権威に逆らわない「いい子」だけが得をする。そんな社会のありようを見せつけられれば、「出る」ことを過剰に恐れ、自分の頭で考えることなく権威に付き従うようになるのは必然だろう。結果、「出る杭」気質の若者はさっさとこの国を見限って海外へ向かう。イノベーションの芽を育てられないこの国は、ゆっくりと静かに沈んでいく。いや、もうすでに沈んでいる。

この記事が掲載されるころ「セクシー田中さん」は最終回を迎えているだろうが、どこかで機会があればぜひご視聴ください。それではみなさま、よいお年を。


(※冒頭の「推定4人の読者の皆様」は、敬愛するエッセイスト、故・高山真さんへのオマージュです)

撮影 魚本勝之

たかはし・じゅんこ
1971年福岡県生まれ。1993年に朝日新聞入社。鹿児島支局、西部本社社会部、月刊「論座」編集部(休刊)、オピニオン編集部、論説委員、政治部次長を経て編集委員。
 

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