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「日本農業は世界一保護されている」はフェイク?

東京大学大学院農学生命研究科教授 鈴木宣弘さんに聞く

環太平洋連携協定(TPP)、日欧経済連携協定(EPA) の締結に次いで、日米物品協定(TAG) が続いています。その協議の主眼は米国産のコメや牛肉の日本向け輸出の拡大のための農産物市場の開放にあるとされています。こうした貿易交渉を報じるメディアによく登場するのが「日本農業は世界一保護されている」や「日本の関税率は高い」という言葉です。でも、これって本当? 東京大学大学院教授で農業経済が専門の鈴木宣弘さんに聞いてみました。7月と9月の2回に分けてお伝えします。

世界は自国農業を「保護育成」

――環太平洋連携協定(TPP) など諸外国との自由貿易協定(FTA) をめぐる協議の際、あたかも決まり文句のようにてくるのが「日本の国内市場の閉鎖性」という表現です。特に「農業分野」は突出して “やり玉” にあげられ、「日本農業は世界一保護されている」とも言われます。

これらの言葉が本当に的を射たものなのかどうかについて伺いたいと思います。


鈴木さんは「国民の生命と財産を守るのが国民国家の責務であり、そのために最優先すべきは自国の農林水産業の保護育成だ」と常々指摘されています。そうした国家の責務と果たすべき役割を諸外国はどう捉え、どんな政策をとっているのですか。まずは、この点からお話いただけますか。


欧州連合(EU)諸国はもとより、中国やロシアも一次産業の価値を重視していますし、国民の生命の「礎」といえる食料を生産する農業をとりわけ重視しています。彼らは農業を中心とする一次産業が国民の生命はもちろん、環境と資源、地域コミュニティと国土を守ってくれている重要な産業だと考えているからです。

だから、政治家も官僚も国民から託された血税を投入し、自国農業をしっかりと支える政策を真剣に講じます。それは単なる「農家保護」の問題ではなく、自分たちを含めた国民の「生きる基盤」を支える重要な仕事であるという認識の表れといってもいいでしょう。

このように他国の政治家や官僚たちが国の政策として農業保護を続けているにもかかわらず、日本の永田町と霞ヶ関の住人たちは「農業だけを特別扱いするわけにはいかない。自動車や鉄鋼、その他の製造業一般と同じように扱うべし」と頑迷に言い張っています。この背景には現政権中枢と “お友だち” 関係にある企業さえ利益をあげればいいとの “おもんぱかり” があるのではないかという思いが、現政権にまつわる一連のマスコミ報道を見聞きするたびにこみあげてきます。

「農林水産業を工業製品中心の製造業一般と同列に扱う」と豪語する日本の政治家と官僚は「食料自給率」という言葉を死語にしつつ、日本農業をさらに痛めつける政策を実行し、自らの「既得権益」は死守しようとしています。そんなことを許容する国家は世界的に見ても、実に異様で特異というしかありません。

「天下り先」確保に懸命な省庁の意向?

こうしたなか、日本農業は世界で一番過保護な状況にあるという話が、あたかも正論であるかのように、まことしやかに語られているのです。その発信元は電力に石油、鉄鋼、自動車といった大手資本でしょうね。彼らは米国をはじめとする他国の余剰作物の「売り先」として日本の国内市場を差し出し、見返りに自分たちの販売商品の販売市場を手に入れる皮算用の最中です。

その実現には「日本は農業に過保護であり、これに甘んじているから日本農業は駄目な産業なのだ」という考えを日本国民に刷り込み、農業保護政策を後退させ、農業分野への予算支出を削減させる必要があるわけです。そうしておいて、日本の農産物市場を大資本の餌食として与え、もっぱら自動車産業が利益を得る構造を定着させようというのです。

まるで時代劇の悪代官と悪徳商人のやりとりを聞いているような気分になりませんか。「お前も悪よのぉ」といやらしく耳障りな声音でつぶやくのが、だれで「ヒッヒッツ」と下卑た笑いを返しているのは、どの業界のだれかはご想像にお任せしたいと思います。そんな当節の悪徳商人は政治家と徹底的にタッグを組み、マスメディアを使って「日本農業過保護論」を社会に浸透させることに見事に成功しました。だから「日本農業は補助金漬けの過保護状態。おまけに世界で一番過保護というのだから、とんでもない」と言う人がほとんどになったのです。

まさにお見事というしかないくらいに、彼らは「日本農業過保護論」を浸透させました。これで十分な利益を手にしたのは経済産業省の役人でしょう。これまでも彼らは天下り先という「おいしい実利」を自動車業界などから手に入れようと政治をうまく利用してきましたし、いまが一番絶好調。陰で「経産省政権」と呼ばれるほど、現官邸では経産省の意向が隅々まで働いていると聞いています。

日米物品協定(TAG) の名を借りた日米FTA も、自分たちの天下り先を確保せんとする経産省の「総仕上げ」と呼べるものです。彼らはうまく官邸に取り入り、米国の思惑通りに日本の農産物、すなわち国民の生命の糧を差し出す動きを徹底しようとしています。こうして日本は、国民の生命と財産を守るという国家の責務を放棄し、大手資本と霞ヶ関の “お友だち” の利益を守ることを最優先する、世界でも例のない奇妙きてれつな国になってしまいました。

スイスと韓国は食料安全保障を重視

――諸外国の農業政策はどうなっているのですか。具体的にお話しください。

まずは輸入品の急増から国内の農作物を守るための関税率からお話ししましょう。

「日本の農産物の関税は高い」と報じるマスコミは圧倒的に多いのですが、実は日本の農産物の関税率は経済協力開発機構(OECD) のデータでは「11.7%」。米国よりは高いのは事実ですが、EU は「20%」なので、その半分です。タイやブラジルは大変な農産物輸出国ですが、これらの国々も「35%」から「40%」の関税率を設定しています。そうした農産物輸出国と比べ、日本の関税は4分の1 という低水準なのです。


ではなぜ、「日本の関税率は高い」と言われるといえば、コンニャクに1700%の関税が設定されているためです。コメも300%を超えていますから、コンニャクとコメばかりが “やり玉” にあげられるのですが、キャベツなど他のさまざまな野菜の関税率は大半が「3%」程度。実際のところ、日本の農産物の9割は低関税率の品目なのです。そんな国は世界でも非常に珍しいということを覚えておいてください。

ですから、ほんのごくわずかに高関税の品目があり、そこだけを強調すれば「日本の関税率は高い」と思う心理が巧妙に利用されているというしかないのです。まさに、どなたかがお得意の「印象操作」というしかありません。繰り返しますが、日本の関税率は平均「11.7%」。対して韓国の平均関税率は「62%」、スイスは「51%」となっています。スイスは改正前の憲法にも「食の安全保障」を国家目標として盛り込んでいましたが、先の憲法改正で、それを明記しました。

韓国では憲法改正まではいきませんでしたが、農業界が中心となって「農と食料の安全保障」と国土・環境保全といった「農業の多面的機能」という公共的な価値を条文として明記しようという国民的な運動が起き、約1200 万人の署名が集まったそうです。


そういうスイスや韓国は関税率が無茶苦茶高い。平均で5割、6割というのはすごいことです。関税だけでも1.5倍とか、1.6倍という貨幣価値になってしまうわけです。このように関税制度を活用し、輸入産品の過剰な流入から自国産業を保護する正当な権利の行使を主張するのは、国民国家としての最大の責務ですよ。それができていない、いや、そんな食料安全保障を重視した政策は不要といわんばかりの日本という国家はまさに砂上の楼閣といっていいかもしれません。

(諸外国の農業保護政策の現状については、次回掲載します)


写真/魚本 勝之

【2019年7月10日掲載】

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