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生協の食材宅配【生活クラブ】
国産、無添加、減農薬、
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「おいしさ」の向こう側にある風景


国産加工用トマトを使ったケチャップを生産するコーミは、深刻な原料危機を経験してきた。その教訓を生かし、原料の安定確保に向けた取り組みに力を入れる。

コーミ常務の牧戸正博さん
 
生活クラブ生協の組合員が選ぶ「消費材ベスト10」の常連で、子育て世代を中心に高い評価を得ているのがトマトケチャップだ。「甘さと酸味のバランスが絶妙で、他社製品にはない、おいしさが楽しめる」と多くの利用者が称賛する。 そのおいしさは「主原料の国産加工用トマトがあってこそ。外国産トマトを使った製品には出せない味です」と話すのは牧戸正博さん。

生活クラブのトマトケチャップを生産する調味料メーカー・コーミ(愛知県名古屋市)の常務取締役で、国産加工用トマトの調達責任者でもある。 生活クラブがコーミと提携し、トマトケチャップを開発したのは1974年。国産原料を使い、無着色かつ化学調味料不使用で、リユース(繰り返し使用)が可能なビールびんに詰めたケチャップが誕生した。

ところが、「注ぎ口が細いため、思うように中身が出せないという意見を数多くいただき、80年代にワンウエイ(使い捨て)の広口びんに変更。これを生活クラブのグリーンシステム導入に合わせてリユースびんに替えたのが90年代半ばです。その後、副原料の遺伝子組み換え(GM)対策も完了し、現行のケチャップになりました」と牧戸さんは言う。

外国産ペーストの台頭で

開発当初は愛知県内でも加工用トマトの栽培が盛んで、コーミの豊橋工場(豊橋市)の周辺にも多くの畑が残っていた。それが次第に姿を消していったのは70年代後半。海外で生産したトマトを現地で加工したトマトペーストの輸入が増加したからだ。

それまで食品メーカーは農家に生産を委託する「契約栽培」を通して、国産加工用トマトを調達してきた。しかし、外国産トマトペーストを使えば、必要量を随時入手でき、重量当たりの価格(トマト換算)も国産品の半分以下に抑えられるため、国産加工用トマトの調達をやめる食品メーカーが相次いだ。結果、75年には71.3%だった加工用トマトの自給率は89年には16.3%に低下、2011年には3.6%に落ち込んだ。

89年の自給率低下の背景にはトマト加工品の貿易自由化がある。これにより外国産トマトペーストが台頭し、国内の加工用トマトの作付面積は大幅に減少した。その影響から90年にコーミも生活クラブのケチャップにチリ産トマトペーストを使わざるを得なくなった。

2003年には愛知県内で加工用トマトの契約栽培を続けてきた大手食品メーカーが同事業からの撤退を発表.これが農家の生産意欲を減退させ、加工用トマトの集荷販売を手がける農協(JA)も減少の一途をたどる。

「契約栽培から撤退した大手メーカーとは何かあれば愛知県産の原料を融通してもらえる関係にありました。その道が閉ざされ、県内の生産者も減っていくなか、04年は加工用トマトが全国的に不作となり、生活クラブのケチャップにも米国産有機トマトペーストを使うしかなかったのです。申し訳ないやら悔しいやら、同じ失敗は決して繰り返すまいとの誓いを胸に刻み込みました」(牧戸さん)

支柱を立てずに露地栽培される加工用トマト

産地で企画された収穫体験には多くの親子連れが参加。地元の子どもたちも汗を流した

自ら先頭に立つしかない

コーミ社長の川澄正美さん

大手メーカーの契約栽培からの撤退を愛知県産加工用トマトの消滅につながる危機と受け止め、「手遅れになる前に、コーミは契約栽培をやめないという意思を県内の生産者とJAに何としても示さなければならないと焦燥感にとらわれました」と話すのはコーミ代表取締役社長の川澄正美さんだ。

川澄さんは牧戸さんと対策を協議し、愛知県はもとより、県外にも産地を開拓していく決意を固めた。 牧戸さんは生活クラブ連合会(東京都新宿区)の開発担当者の助言を得て国内各地に足を運び、05年に秋田県と青森県での産地開拓に成功した。

その間、川澄さんは全国トマトエ業会(東京都中央区)を訪ね、愛知県産加工用トマトの生産振興と国産加工用トマトの価値を社会に広めるための活動への支援を求めた。川澄さんが言う。 「当時、私の頭にあったのは農家とJA、食品メーカーと流通関係者、消費者、さらに行政の農政担当者が一堂に会し、愛知県内での加工用トマトの持続的生産を支えながら、国産加工用トマトの魅力を広く社会に伝えていく『会』が発足できないかという思いです。

もはや原料生産者と食品メーカーという限られた関係のなかで議論していても問題解決はないと肝に銘じ、コーミが先頭に立って関係各方面に協力を求めていこうと牧戸と2人で腹をくくりました」

愛知県の内外に産地を

コーミ専務の川澄亮太さん
 
川澄さんの呼びかけに賛同し、発起人となった愛知県内の食品メーカー・岡本食品とJAあいち経済連の尽力と全国トマトエ業会の協賛を得て、06年11月に設立されたのが「愛知県加工用トマト拡大協議会」だ。

同協議会は生産農家とJA、東海コープ事業連合と生活クラブ生協、行政の農政担当者や学校給食関係者で構成され、設立発起人が事務局を務める。 毎年11月に開催される総会では10アール当たりの収穫量(反収)が多かった農家を表彰し、加工用トマトの収量アップにつながる栽培技術を農家間で共有するプログラムを準備。消費者が農政担当者や生産農家、食品メーカーと率直な意見を交わす交流の場も企画する。

こうした活動から生まれたのが、愛知県産トマト仕様のケチャップだ。 「協議会に参加した農家に『俺が一所懸命に育てたトマトは、何に使われているのか』と言われたのがきっかけです。まさに灯台下暗しだったと反省し、愛知県産加工用トマトだけを主原料とするケチャップを開発しました。生産農家に届けると『こんなにおいしいケチャップになるのか』と感激し、『これからも頑張ってトマトを育てる』と言ってくれたのが実にうれしかったですね」(川澄さん)

愛知県産加工用トマト拡大協議会の設立から3年後の09年、コメや青果物の共同購入を通して生活クラブと提携する宮城県のJA加美よつば(加美郡色麻町)が加工用トマトの契約栽培を開始し、12年には北海道の沼田町でも同様の取り組みが実現した。 両産地に足しげく通い、契約栽培の実現を求めてきた牧戸さんは「本当に頼もしく、ありがたい存在です。ともに地域の農業振興に熱心で、加工用トマトの栽培にも前向きに取り組んでくれています。こんなに素晴らしい産地を紹介してくれたのも生活クラブでした」 と笑顔で語る。

常に起こりうる原料危機


しかし、11年の東日本大震災の際には、福島第一原発事故の影響で、宮城県と福島県の加工用トマ卜を使ったピューレの出荷が全面禁止となり、翌年の原料確保が危ぶまれた。

「12年は北海道の沼田町との提携のおかげで、原料不足には至りませんでした。しかし、地球温暖化や異常気象、農家の高齢化と後継者難による労働力不足など、不安材料は数多くあります。まだまだ安心してはいられません」と牧戸さん。 現在、最も力を入れているのが、石川県のJA小松市との本格的な提携を目指した加工用トマトの試験栽培だ。

全国農業協同組合連合会(JA全農)の担当者を介し、石川県のJA小松市を訪ねた牧戸さんは、同JAの役員と販売担当者を15年11月に開かれた愛知県産加工用トマト拡大協議会の総会に招待した。その際、加工用トマトの契約栽培に興味を抱いたJA小松市が、すでに契約栽培に取り組んでいたJA加美よつばを視察したのが縁となって試験栽培が実現した。

「初年度の今年、JA小松市では70トンの収穫を目指し、2ヘクタールを超える畑に加工用トマトを作付けしてくれました。今回のテストが成功すれば、石川県内の他のJAにも契約栽培を依頼できる可能性も出てきます」と期待を寄せる。 そんな産地拡大への飽くなき挑戦が、「社員の国産加工用トマトに対する関心を高め、国産加工用トマトを使った食品を日本で一番多く製造・販売しているのは自分たちの会社だというプライド育成にもつながっています」と喜ぶのはコーミ専務取締役で営業本部長の川澄亮太さんだ。

毎年10月から11月にかけ、夏場に収穫した国産加工用トマトを使ったケチャップが出荷される。その向こう側に広がる風景にも思いをはせ、今年の「新物」を味わいたい。

自分たちで収穫したトマトと生食用トマトを食べ比べる子どもたち。合わせて、とれたての加工用トマトを使ったトマトケチャップづくりも行われ、牧戸さんが講師を務める


撮影/高木あつ子   文/本紙・山田 衛

国内の大手食品メーカーも注目


生活クラブのトマトケチャップを生産するコーミは、その主原料となる国産加工用トマトの試験栽培を今年初めて石川県のJA小松市に委託した。 生食用トマトの生産量が北陸一のの同JAでは、小松市が創業の地である大手工作機械メーカー 小松製作所の支援を受け、規格外品となったトマトを活用したレトルト製のトマトカレーを開発し、日本国内はもとより、海外からも多くの注文が入る人気商品に育て上げてきた。 

JA小松市営業部長の南出耕市さん
 

「トマトカレーの販売額から生産販売コストを引いた利益は、すべてトマトの生産農家に還元しています」と、同JA営農部長の南出耕市さんは話す。

今回の試験栽培は2018年からのコメの生産調整見直しを視野に入れたもので、水田転作で栽培した加工用トマトを使ったジュースやケチャップの販売収益の一部を農家に分配し、営農意欲と所得の向上に資するのが目的だ。

毎年、7月末から8月にかけての真夏に収穫期を迎える加工用トマトは、支柱を立てずに木を地面にはわせる露地栽培で生産される。 高温多湿の日が続く夏場に、真っ赤に熟したトマトだけを選び、腰をかがめて収穫しなければならず、高齢化して後継者がいない農家には敬遠されがちな仕事とされる。それでも今シーズンの試験栽培には、JA小松市の組合員農家と農事生産法人の計35戸が参加し、2ヘクタールのほ場に加工用トマトが作付けられた。

「今年は5月の小雨と8月の台風の影響で、当初の収穫目標の70トンは下回りそうですが、とても心強い取り組みです。私たちも農家の労働を少しでも軽減したいと同業の大手メーカーが提供してくれた収穫支援機の導入実験を15年から愛知県内で始めました。効果が検証されればJA小松市や他の産地でも使ってもらい、加工用トマトの持続的な生産に役立てたいです」とコーミ常務取締役の牧戸正博さんは言う。

原料の鮮度や品質保持や輸送コストを考慮すると、コーミの工場から300~350キロ圏内にある産地が望ましいだけでなく、温暖化の影響を考えても北陸での加工用トマトの産地確保が急務と考えてきたと牧戸さん。「今年収穫された小松産トマトを主原料とする『小松産トマトケチャップ』の製造は当社に任せてもらいました。これが契約栽培の継続につながる力になってくれれば、本当にありがたいと思っています」 すでに宮城県のJA加美よつば(加美郡色麻町)では、地元で栽培した加工用トマトを使ったオリジナルブランドのケチャップを開発し、同JAの管内で販売している。

北海道沼田町は地元産加工用トマトを町営工場でピューレに加工し、コーミに出荷。搾ったままのトマトを使った100%のストレートジュースの製造販売も開始された。 「いずれも国産加工用トマトの価値を産地と消費地に広める試みです。こうした当社の産地開拓と連動した動きに、国内でトマト加工品を製造する大手食品メーカー2社が注目していると聞きました。これも励みになる話です」と牧戸さんは力を込めて話す。

撮影/高木あつ子   文/本紙・山田 衛

『生活と自治』2017年10月号の記事を転載しました。

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