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はじめに「生活要求」ありき



日本生協連の「コープ商品」を共同購入していた生活クラブ生協が、独自開発品の開発を急ピッチで進めたのは1970年代。その原動力となったのは、生活クラブ組合員の「生活要求」と「商品社会の構造」を批判的に捉える思考の共有だったと生活クラブ連合会顧問の河野栄次さんは言う。そうした消費材開発の歴史を踏まえ、その基本理念を簡潔にまとめたのが「生活クラブの消費材10原則」だ。

どんな生活をしたいのか?

――生活クラブ生協でしか手に入らない食品や日用品が「消費材」であり、その開発は生産者と生活クラブの組合員、さらに専従職員が担っています。
そうした消費材開発の基本理念を簡潔にまとめたのが「生活クラブの消費材10原則」です。そこに示された方向性に沿って、現在も開発が進められているわけですが、その起点となった1970年代の動きについてお話しください。


「まず、確認しておきたいのは生活クラブの共同購入は人々が持つ『もの』を買う力を集める、社会に分散している個々人の購買力を意識的に集めるための経済行為であり、事業であることです。

ただし、その事業の最大の目的は利潤追求ではなく、私たちの要求が反映された『もの』を社会に登場させ、売り手が一方的に与える価値を批判し、商品社会の問題点を明らかにすること。だから単なる事業ではなく、社会の価値観を組み換えていく運動でもあるわけです。

その運動が成立するには欠かせない二つの要素があります。一つが皆さんの生活要求。自分はどんな生活をしたいのか、それには何が必要なのかを自発的に問うことから生じる思い。それともう一つが社会的な構造問題に対する批判的な認識です。こういうと何か難しいように感じるかもしれませんが、実は単純な話で、私たちがしんに求めるものが市販されていないのはなぜかと疑問を持つことですよ。

それは現在も半世紀前も変わりません。『こんなものいらないのに』と商品社会のありように何かしら強い疑問を抱いた人たちが生活クラブに加入し、自らの意思で共同購入に参加したわけです。そして互いの要求を出し合い、その要求の背景にある構造的な矛盾や問題を確認し、その解決を目指すための具体的な社会提案としてオリジナルの「Sマーク消費材」を開発したのです。

当時の組合員は『こういうものがあればいいのに』と、だれかが何かを与えてくれるのを待っていたのではなく、自分の『ほしい』に共感してくれる人を増やし、生産者と契約した数量を着実に利用しました。その力に社会が注目したのです」

品質も価格も自らつくる


 
――購買力の意識的な結集が社会的インパクトを生み、組合員は自分たちが求める品質と価格の「消費材」を手に入れたということですね。

「そう。重要なのは自分がどういう生活を望むかという生活要求と商品社会への批判を共有すること。それが消費材開発の原点なんです。この点を生活クラブが国内の生協陣営初となる自前の牛乳工場を1979年にどうして造ったかという点から説明しましょう。

あの当時は海外からの原油供給がひっ迫し、さまざまな社会システムに支障が出るとされた石油ショック(1973年)の影響で原乳価格が年に4回上がりました。そのころ提携していた乳業メーカーは原乳価格が上昇するたびに、加工費を上げてきた。仮にメーカーが1時間に1000本の牛乳を生産可能な工場設備を有しているとして、実際の生産量は1時間に500本。それが800本になったら、1本当たりの生産コストはどうなりますか。当然、800本の方が安くなりませんか。だとすれば牛乳の製品価格に工場の処理費を上乗せはできないはずです。

そこで、生活クラブは工場の生産コストについて情報公開を徹底してほしいと求めたのですが、残念ながら徒労に終わりました。それなら酪農家と共同で自前の工場を持ち、加工処理費の内訳に関する情報公開を国内の大手乳業メーカーに先駆けて徹底しようと考えた。そうすることで商品社会の暗部を明るみに出そうとしたわけです」

――情報開示の徹底が商品社会の「常識」を揺さぶる購買力の結集につながったということでしょうが、生活クラブの共同購入には生産者との協議にもとづく「購入ロット(単位)」が設定され、これを組合員が誠実に履行したことも大きかったのではないですか。

「むろんです。確約された利用数量をまとめる生活クラブの共同購入の仕組みには生産コストが抑さえられるという最大の強みがありました。だから組合員価格も下げられるわけです。おまけに1カ月前に購入数量を予約し、製造に必要な原材料に労働力、包材の量まで読める仕組みを用意したのですから、生産者の余剰リスクも格段に低くなります。さらに配送コストまで考え、工場から各センターまでの配送は100ケース以上とするとメーカーに約束しました。

一方、日本生協連のコープ牛乳の場合、店舗中心の生協の発注数量は天候次第でめまぐるしく変わるわけです。にもかかわらず、他生協と生活クラブを同列に扱い、値上げを求められるとなれば納得できるはずがありません。そのころ、生活クラブの組合員はコープ牛乳の総供給量の20パーセントを利用していました。

本来なら、予約共同購入を徹底し、配送ロットという生産者との約束ごとをしっかり守り、利用結集の高い生活クラブの組合員価格は、抑えられなければおかしいし、これこそ協同の成果なのに、その点をメーカーは認めようとしませんでした。その矛盾を自前の牛乳工場を持つことで解消したわけです。

この結果、牛乳に関しては加工乳全盛の時代に成分無調整こそ牛乳という価値観を打ち立て、現在では大手乳業メーカー含めて成分無調整の牛乳の比率が8割超になっています。まさに商品社会を動かしたわけです。

「対社会」の視点と発想

ところが、まだ生活クラブの共同購入が商品社会の常識を打ち破れないことがあります。それが殺菌温度の問題。UHT(Ultra-High-Temperature=超高温)と呼ばれる120度から130度の高温で数秒間殺菌した牛乳が、いまも日本では主流なのです。

これは原乳の質を生かせない殺菌方法なため、生活クラブは牛乳の製法を72度15秒殺菌の『パスチャライド製法』に改め、牛乳を生鮮食品として位置付けています。しかし、残念ながら、いまも商品社会の常識は覆せていません。パスチャライズド製法は、原乳の質が高くなければ導入できないからです。

つまり、私たちと提携する酪農家の営農努力と飼育管理体系の確立があってこそのパス乳なのです。彼らの営農意識と技術水準が日本の酪農家の常識にならないかぎり、真の意味で社会問題の解決にはつながりませんよね。この点を忘れ、良い牛乳を開発したと思っているだけでいいのでしょうか。

当然ですが、牛乳の味は原乳の質によって変わります。夏場の原乳の味と冬場の味は違って当たり前。原乳の質が変わるわけですから、ヨーグルトの味だって夏と冬では違ってきます。こうしたことも情報としてしっかり共有すべきでしょう。

なぜなら、それが生活クラブの武器だからです。商品社会は1年間画一的な味にしたいわけです。そこに生活クラブは違うと切り込む。原乳の状態によって味が変わるのが自然なのであり、それが乳製品の本質だと社会に示す必要がありませんか。そこに消費材開発を考えるうえでのキーポイントがあると僕は思っています。

しょうゆだって同じです。生活クラブの共同購入が商品社会の慣習を改めさせ、化学調味料不使用、木桶きおけを使った天然醸造が当たり前じゃないかという流れが生まれ、定着してきました。しかし、いまだに国内の大手しょうゆメーカーは自社製品の製造法と醸造期間を明らかにしていません。

そうした矛盾や問題点について、かつて組合員は自ら調査し、商品社会の現状を明らかにしようとしていました。それが消費委員会活動ですよ。

いまはどうですか。成分無調整のパス乳だからいいんですよ、木桶で一年醸造したすぐれものですよと確認はしても、『どうしてあなたたちはパス乳を生産しようとしないのか』『なぜ醸造法と醸造期間を製品に明示しないのか』とメーカーに迫る運動を展開しようということにはなっていないのではないですか」

「言葉」だけ伝えても

――ではどうすればいいかとなると、なかなか答えが見つかりません。

「だから、商品社会の構造に目を向ければいいのです。たとえば豚肉。と畜解体され、頭と内臓などを落として半身になった枝肉は重量、筋肉繊維の質、脂肪の色、ロースの芯の大きさなどを比較し、競りにかけて『極上、上、中、並、等外』の規格分けがされています。

ところが、スーパーなどで売られている豚肉に、どの規格の枝肉かを明示する表示はされていませんよね。売価は本来枝肉の規格で決まっているはずですが、その根拠がわからないまま、消費者は売り手の言い値で豚肉を買わされているのです。

そこで生活クラブはどうしたかといえば、雑種強勢を生かして健康に肥育された平田牧場の『三元豚』の枝肉だけを1頭分無駄なく共同購入しようと決めたわけです。しかも、三元交配のポイントは、生産効率が下がっても食べる側の価値を具体化した肉質を確保しようという点に価値があるのです。

その豚肉の再生産を困難にする状況が生まれているのも忘れてはならないと思います。現在、日本で消費されている豚肉の50パーセントは輸入品になってきました。豚肉の価格は本来は需要と供給のバランスで決まるはずですが、国産より低価格の輸入品の市場占有率が50パーセントという現実が国産品の価格を引き下げる圧力として働くわけです。そうなると国内の養豚農家は生産コストが回収できず、再生産が難しくなります。

だから、生活クラブは生産コストを最大限反映できる価格設計をしたのです。

次に取り組んだのが飼料問題の解決ですよ。減反で水田を埋めて大豆を作付けするより、水田は水田としての機能を生かし、豚に食べさせるコメを栽培する。そうすれば、農機具も食用米栽培と共用で使えるじゃないかと提携生産者に提案したのです。

そうすれば、国内の『食』の生産基盤が守れ、家畜の肥育も可能になります。だから『米育ち豚』という言葉だけを伝えても仕方がないんです。どんな社会問題の解決を目指して、その消費材が存在するのか、その消費材の登場は、商品社会のどんな矛盾をどこまで解決できたのかを伝えることに意味があるんです。これが消費材は商品ではなく、生活クラブの共同購入はひたすら利潤追求を目指す事業とは違うということですよ」
撮影/魚本勝之    取材・構成/本紙 山田 衛

『生活と自治』2020年1月号「新連載 産地提携の半世紀」を転載しました。

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