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[本の花束2020年1月] 自分で風を吹かせることができるのが人間の力。僕はそれを信じたい。作家 真藤順丈さん

2019年 第160回直木賞受賞の『宝島』は、戦後、米軍統治下の沖縄をたくましく生き抜いた「戦果アギヤー」の若者たちを描いた長編です。激動の沖縄戦後史をどのように描いたのか、著者の真藤順丈さんにお話を伺いました。

「戦果アギヤー」という耳慣れない言葉が物語を牽引する核になっていますね。

戦果アギヤー(戦果を上げる者)とは、戦後まもない沖縄で、米軍基地から食料などの物資(戦果)を奪って糧とし、地元中に配っていた人たちのことです。

彼らのなかにはその後、沖縄の経済界で成功した人もいれば、ヤクザになった人もいる。いわば、沖縄戦後史の源流にあるのが戦果アギヤーなんです。サンフランシスコ講和条約から沖縄返還までの沖縄の20年を、戦果アギヤーの目線で駆け抜けるような……そんな本を読んでみたいと思ったのが、この小説を書いたきっけです。僕の小説はいつも「自分が読みたい」から始まっているんです。
住民の4人に1人が亡くなる壮絶な沖縄戦を生き延びた人たちが、戦後の混乱を力強く駆け抜ける。その疾走感と熱量に圧倒されます。

『宝島』は青春小説ですし、熱量で引っぱっていくのは僕の芸風みたいなものですから(笑)。
沖縄の出身でもない僕が沖縄を描くことに躊躇はありました。

だけどセンシティブな題材だから触れないでおこうというのもひとつの差別意識だと思うし、だったらとことん資料に当たり、フィールドワークをし、やれることはすべてやったうえで小説の完成度を高める。そのうえで批判が上がるなら矢面に立とうと。戦果アギヤーが米軍のフェンスを越えていったように、僕自身もこの物語を書きながら越境していくような、そんな思いがありました。
戦果アギヤーのヒーロー、「オンちゃん」が冒頭で突然いなくなる。その謎を追う仲間たちの物語と、米軍統治下の沖縄の激動の20年間という史実が重ねられる構成は圧巻です。

宮森小学校への米軍機墜落事故や米軍兵士による少女暴行事件、コザ騒動など、戦後、沖縄では「こんなことが本当に起こったのか?」と思うほどの激動の歴史があります。だからこそ逆に、その大きな歴史に、人々の小さな歴史が負けてしまわぬよう、生きた個々の表情や感情の交わり、食べたり踊ったりという生身の姿を描くことに心を砕きました。激動の歴史のなかに、生きた人々が交わってハレーションを起こしていく様を描きたかった。

オンちゃんの面影を追いながら、自立した女性として生きる「ヤマコ」が特に魅力的ですね。

基地のフェンスを越える男たちを見ながら黙って待つしかなかったヤマコが、勤めている小学校の米軍機墜落事故をきっかけに基地反対運動に目覚め、もう男たちには頼れない、「あたしがこの島の英雄になるよ」と言うまでに成長した。ただのマドンナ役ではなく、地に足をつけて『宝島』の看板を担うひとりのプレイヤーになってくれた。

彼女が能動的に世界と向き合うまでに成長してくれたからこそ、この作品は成功したと思っています。

ヒーロー不在のなかで、どう生きるかを問う物語でもあったのですね。沖縄に限らず、今のこの社会にも当てはまると思います。

この『宝島』の副題は「ヒーローズ・アイランド」。宝島とは、凄惨で過酷な戦中戦後の沖縄で、それでも人々に人と人とのつながりや喜び、躍動があり、それこそが「戦果」だということ。

そして、物語の最後に描いたコザ騒動は、戦果アギヤーたちの決算でした。戦果アギヤーの魂が、皆に乗り移り、それぞれの人々に内側からヒーローが立ち上がってきた。それぞれの人にそれぞれの戦い方がある、自分で風を吹かせることができるのが人間の力だと思うし、僕はそれを信じたいんです。

ヒーローは一体どこにいたのか? 謎が一気に繋がる終盤のカタルシスは、これぞ読書の楽しみですね。今日はどうもありがとうございました。

インタビュー:岩崎眞美子
著者撮影:尾崎三朗
取材:2019年10月


●しんどうじゅんじょう/1977年、東京都生まれ。2008年『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。同年『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞受賞。他著に『畦と銃』『墓頭』『夜の淵をひと廻り』など。『宝島』は第160回直木賞の他にも、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を獲得した

書籍撮影:花村英博
『宝島』

真藤順丈 著
講談社(2018年6月)
19.5cm×14cm 541頁

2018年 第9回 山田風太郎賞
2019年 第160回 直木賞
2019年 第5回 沖縄書店大賞  受賞
図書の共同購入カタログ『本の花束』2020年1月1回号の記事を転載しました。

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