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[本の花束2019年6月] 死を怖れず、死にあこがれずに 医学博士・小堀鷗一郎さん


医学博士・訪問診療医 小堀鷗一郎さん

誰もが避けることのできない老いや死。現代の日本では、自宅で最期を迎える方が少なくなり、ほとんどの方が病院で亡くなります。そんななか、在宅医療に携わり、多くの高齢者を看取ってきた小堀医師。家族や自分自身の問題として、最期のあり方をどう考えたらよいのか、お話を伺いました。

──小堀先生が、在宅医療に関わられるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

私は40年間を外科医として過ごしてきました。しかし60代後半になり、そろそろ手術をするのが難しくなった頃、往診を担当していた医師に手伝ってほしいと言われたのがきっかけです。
様々な相談を受け、往診するうちに口コミで広がり、これまでに約800軒のお宅を訪問したことになります。今年で14年目に入ります。

──外科とはまったく違う在宅医療に飛び込んでいかがでしたか。

外科医だったときの私はいつも、この人をどのように手術するかとか、術後の合併症だとか、そういう観点でしか見ていませんでした。患者さんに「先生は本当に手術にしか興味がないんですね」と言われたこともあるほどです。一方、在宅医療は目の前の人と接して話していく仕事です。それぞれの人に様々な人生があり、多くの人に接していくことは、私にとって非常に興味深く、エキサイティングなものでした。

──在宅医療に関しては、医療現場の方でも、まだ多くは理解されていない状況だそうですね。

そうですね。私もそうだったように、病院で働いている多くの医師たちは、基本的に患者さんの根治や延命を目的とした治療をしています。それ故にもう治癒の見込みがなく、家で死にたいと思う患者やその家族のことを考えている医師は、ほとんどいない。在宅医療を続けていても、結局、病院で死ななくてはならなかったり、また、社会格差も広がり、貧困で入院できず、自宅でしか死ねない人も増えている。元々はそのような状況を少しでも知ってもらいたいと啓蒙書を書こうと思っていたんです。

──でも、この本は啓蒙書ではなく、個々の方たちのエピソードを具体的に記していく形にまとめられましたね。

身寄りをすべて亡くした人や、家族がいても会いにきてくれる人がいない人……そうやって、ひとりで亡くなっていく方にも、豊かな、語るべき人生がある。でも、私がここで書き残さなければ、そういう人生があったということは誰も知らない、知られないまま終わってしまう。そんな様々な人生に向けて鎮魂の思いを込めて書こうという気持ちに変わったのです。

──人はどのように死を迎えたいと思うのか、いろいろな形があることがよくわかりますね。

どんな人にも「死ぬ前にこれだけはやっておきたい」という思いがあります。最後にノーベル賞に近い研究を遺して死にたいと思う人もいれば、死ぬ前に好きだった宝塚スターのブロマイドを眺めたいという人もいる。人それぞれ違うけれど、自分はこうして死を迎えたい、という思いがあることは誰にも共通している。しかし実際には、そう簡単にはかなえられない。多くの人が在宅死として想像する、死にゆく人の枕元で家族が揃って「お父さん、これまでありがとう」というドラマのような情景は、ありえません。現実はきれいごとではありませんからね。

──エピソードに重ねて、引用されている多くの文学作品のフレーズも印象的でした。

ガルシア・マルケスは『コレラの時代の愛』のなかで、人は「いい思い出だけをより美しく飾りたてるもの」と書いています。それによって「過去に耐えることができる」のだと。改めて思うのは、自分が考えた言葉なんて何ひとつないということ。みんな、過去の人々がすでに綴っている言葉だったのだなと思います。人生の終わりは、すべての人たちに訪れるもの。今の日本は、まるで死というものが存在しないかのような世の中になっています。死を怖れず、死にあこがれずに、向き合っていくことが必要だと思っています。

──今日は、貴重なお話をありがとうございました。
インタビュー:岩崎眞美子
著者撮影:尾崎三朗
書籍撮影:花村英博
取材:2019年2月

こぼり・おういちろう/1938年、東京生まれ。
東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部付属病院第一外科・国立国際医療研究センターに外科医として40年間勤務。定年退職後、埼玉県新座市の堀ノ内病院に赴任、在宅診療に携わる。母は小堀杏奴。祖父は森鷗外。本書で2019年第67回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。
『死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者』
小堀鷗一郎 著/みすず書房 2018年5月
19.5cm×13.5cm 203頁
図書の共同購入カタログ『本の花束』2019年6月2回号の記事を転載しました。

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