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やって来るのは「人間」 急がれる外国人診療体制の整備

ノンフィクション作家・山岡淳一郎さん

さまざまな産業への外国人労働者の参入を促すための「改正入管法」が今年4月に施行された。しかし、受け入れ体制の整備は不十分なまま。早急かつ適切な対応が求められるのはいうまでもないが、とりわけ急務なのが人の命にかかわる「保険医療」での対応だ。今回は外国人医療の現状を追ってみた。

日本の医療・保険システムは「世界一」とWHO

生老病死は世の定めとはいえ、高齢化のテンポは速く、医療や介護は「支え合い」抜きには成り立たなくなった。今回は、支え合うしくみの根本、医療保険に光を当ててみよう。

実は、日本の医療・保健システムは世界的に高い評価を受けている。WHO(世界保健機関)は、2000年に各国の医療制度を比較検討し、日本は「世界一」の折り紙をつけた。他国に比べて医療コストをかけず「健康長寿」を維持しているからというのが、その理由だ。

こう書くと、「そんなはずはない」と反発する人もいるだろう。事実、いまや日本の総医療費は42兆円を突破しているし、「財源不足が深刻」という声も聞く。確かに、日本の総医療費は毎年7000~8000億円増えており、財源問題が横たわっているのは間違いない。

それでも他の国に比べて日本は低いコストで良質の医療が提供されているのだ。たとえば、OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国の2016年の「対GDP(国内総生産)保健医療支出」を見てみると、日本は「10・9%」で6位。米国やドイツ、スウェーデン、フランスよりも低い水準にある。対して断トツに高いのが米国で、医療費はGDPの「17・2%」に達している。医療に莫大なお金をかけながら、経済的格差によって、国民の多くがその恩恵を受けられない。それが米国医療の実態だ。

こと医療においては、米国は日本の反面教師といえる。そんな違いが日米の間で生まれた最大の要因は「国民皆保険」制度にある。日本ではすべての国民が公的医療保険に加入して保険料を出し合い、病気やケガをしたときは低い患者負担(1~3割・高額療養費制度)で質の高い医療が受けられるシステムが機能している。だが、米国では皆保険が成立していない。

日本では、生活保護受給者など一部を除く、国内に住む全国民および3カ月以上の在留資格がある外国人は、次の5種類の医療保険のどれかに入る義務を負う。

・組合管掌健康保険<組合健保>――大企業や企業グループ、同業同種の企業などで構成される健康保険組合が運営。
・全国健康保険協会管掌健康保険<協会けんぽ>――主に中小企業の従事者が入る、全国規模の一つの保険。
・国民健康保険<国保>――都道府県と市区町村が運営し、自営業者、年金生活者、非正規労働者、零細事業の従事者などが入る。
・共済組合――国家公務員、地方公務員、市立学校職員などがそれぞれの職域ごとに加入。
・後期高齢者医療制度――75歳以上の後期高齢者と65~74歳の前期高齢者で障がいのある人が対象。都道府県単位の広域連合が運営。

国民皆保険は、日本が長い歳月をかけて築いてきた社会的インフラなのである。
 

国保財政の「担い手」としての若き外国人労働者

ところが、昨今、一部のメディアが外国人の不適切な保険利用を報じ、「医療タダ乗り」論を展開するようになり、「国民皆保険が崩れかねない」と報じてもいる。はたして、本当にそうなのだろうか。

現在、観光目的で来日する外国人は年間3000万人超となり、在留外国人が64万人、うち超過滞在者は7万人に上る。観光客や医療ツーリズムの利用者は、日本の医療保険に未加入なのため、医療費の全額自己負担が前提だ。個々に民間医療保険や旅行保険に入って備えることとなる。

先に触れたように、一部メディアが問題視したのは、中小企業従業者の「協会けんぽ」と、留学生や自営業者が入る「国保」だった。協会けんぽは「扶養家族」も利用できる。この扶養家族の枠を海外で暮らす親族に適用して日本で受診させた例や、留学生あるいは経営者と偽って来日して国保に加入。高額療養費制度で安く治療を受けたケースが報じられている。政府は、このような保険利用を規制する法案を示している。さらに「協会けんぽの扶養家族は日本居住者に限定」「国保は自治体の窓口での資格や活動の調査権限を強化」と方向づけられている。

では、こうした規制は妥当なのだろうか。扶養家族の予想外の利用は、もともと協会けんぽの加入審査が口頭で済むほど緩かったためであり、今回は開いていた穴を突かれた格好だ。そこで厚生労働省は、2017年に審査の厳格化を保険者に通知。不適切利用は大幅に減ったとされる。国保の「なりすまし」も構造的問題とは言い難い。データが、それを物語っている。

厚労省の国保調査によれば、外国人の国保加入者は99万人で全加入者の「3・4%」を占める。対して、2017年度に外国人が国内で使った国保医療費は961億円と全体の「0・99%」に過ぎず、海外療養費1・7億円を含めても全体の1%を超えるか超えないかのレベルにある。

つまり、外国人の国保加入者は、おおむね若く、健康な人が多いため、日本人の利用の3分の1以下の水準にとどまっている。大多数の外国人は保険料を負担しても、医療機関にはかかる機会が少ないわけで、赤字まみれの国保財政の担い手ともいえる。外国人に対しては、規制ではなく、医療保険の良さを伝え、一人でも多く、公正な条件で加入してもらったほうが制度的安定につながることになる。
 

求められるのは「規制」ではなく、しっかりした「説明」

しかし、診療現場では、医療保険の重要さが外国人患者に十分に伝わっておらず、混乱を招くケースが少なくない。「医療通訳」を務めるネパール人女性のガンガ・ダンゴールさんは、外国人が医療保険を理解しにくい背景をこう語る。

「アジア諸国の人たちは、自国に皆保険制度がないため、医療保険の大切さがなかなか分かりません。病気になったら薬を飲めばいいと思い、母国から山のように薬をもって来日します。でも環境が変われば、かかる病気も変わり、手遅れになることもあります」

数年前、調理師の技能ビザを持つネパール人男性と妻が来日した。夫は国保に加入したが、妻は保険料の負担が納得できず、未加入のまま生活していた。妻には逆流性食道炎という持病があった。弁当屋でアルバイトをしているうちに感染症にりかんし、咳が出るようになったという。ネパールから持参した薬を飲むうちに症状が悪化し、とうとう起き上がれなくなった。夫妻の知人がガンガさんに「助けてあげて」と連絡を入れ、埼玉県の総合病院に彼女を連れて行くと結核と診断された。ガンガさんが回想する。

「奥さんをほったらかしにしていたご主人を叱りました。下手をしたら死ぬところだったのに何で受診させなかったのと問い詰めました。保険証がないことが露見し、全額自己負担、医療費を払えず、国に帰されるのではないかと怖かったと旦那さんは言いました。ソーシャルワーカーに入ってもらい、来日時点までさかのぼって保険料を月々払うようにし、奥さんも国保に加入。しっかり治療を受けて、全快しました。夫婦ともに医療保険のありがたさをしみじみ感じています」

外国人診療のパイオニアで神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所長・沢田貴志医師は、こう述べる。

「全体的に外国人の医療利用は少なく、むしろ遅れて重症化しがちなのです。きちんと保険に入り、早く受診してくれれば医療費も少なくて済みます。公衆衛生の面からも保険加入の条件面で差をつけるべきではありません。高額療養費を使う際は日本人同様、ソーシャルワーカーが通訳とともに入り、生活実態を確かめながら面談すれば、不正の芽も摘めます」

改正された入国管理法が今年4月から施行されている。今春から外国人労働者がどっと来日すると予想され、その数は5年間で約35万人に上るといわれている。介護現場にも外国人ヘルパーが増えるだろう。

やってくるのは「労働力」ではなく、「人間」だ。外国人の受け入れ体制の整備は全般的に遅れているが、とりわけ人の生命にかかわる医療面での対応が急がれるのはいうまでもない。求められるのは規制より、説明だ。まずは医療保険のしくみをしっかり外国人労働者に伝え、保険加入を増やす努力が必要だろう。

やまおか・じゅんいちろう
1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、建築、医療、政治などの幅広く旺盛に執筆。『国民皆保険が危ない』(平凡社新書)『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)『原発と権力』『インフラの呪縛』(ちくま新書)『神になりたかった男 徳田虎雄』(平凡社)など著書多数。

 

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