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農民作家・山下惣一さんに聞く「コメの生産調整」はやめるというが――

農民作家 山下惣一さん

今年、政府は47年間続けてきたコメの生産調整(減反制度)を廃止する。今後、農家は自由にコメを栽培でき、品質や価格を競い合うことになる。併せて、コメの販売価格が生産コストを下回った場合に、その差額を一定程度補償する戸別所得補償制度もなくなる。いわゆる「平成30年問題」だ。これら一連の動きについて、佐賀県唐津市在住で農民作家の山下惣一さんに聞いた。山下さんは82歳。いまも佐賀県唐津市で農業を営む。

「永遠に、おいで、おいで」の世界

――コメの作付面積を減らし、生産量を調整する政府の「減反政策」が終了しました。2018年から農家は原則的に自由にコメが作付けできるようになります。政府が減反に踏み切ったのは1970年でした。

当時の心境や周囲の農家の姿は、拙著「野に誌す」(六藝書房)に詳しく書きました。「こっちの水は甘いぞ」ではありませんが、「こうすればよくなるぞ、もうかるぞ」と日本の農業は「永遠に、おいで、おいで」の世界に振り回されるのかと、持っていき場のない思いでしたね。

戦後、政府はコメを日本国民の基本的な食料と位置付けた食料管理制度のもと、税金での買い取りを前提に農家に増産を求めました。この結果、60年には150キロ当たり10,405円だった生産者米価が68年に20,640円となり、翌69年には日本の農家の力だけで初めてコメの自給が可能となりました。つまり自給率100%が達成できたのです。

それが一転、もはやコメをたくさん作る必要はないとなり、コメの作付面積を減らして、別な作物を生産すれば、助成金をお支払いしますとなったのです。私も水田の規模拡大に真面目に取り組んできた農家の一人でしたから、本当に当惑しました。その規模拡大の一環で、私も細くて帯のような田んぼを買ったことがあります。持ち主に無理を言って譲ってもらったのですが、引き渡しは、その年の収穫後ということにしました。その田んぼに秋の刈り入れを終えたころに行ってみたら、わら人形を燃やし、何かお祭りをしたような形跡が残っていたのです。

驚いて「いったい何ですか」と、買った田んぼの元持ち主に聞いてみると、「これは自分がつくった田んぼではなく、先祖から預かったもの。それを手放すのは先祖と別れるのと同じだから、先祖別れの儀式をした」と言います。現在はまったく逆の話になってきていて、先祖伝来の農地は「負動産」として扱われ、速やかにお別れしたいという時代になってしまいましたが、譲り受けた田んぼの持ち主の言葉は実に衝撃的でした。

私は自分の水田の規模拡大しか考えず、逆の立場に置かれた人のことはまったく眼中になかったと気づかされたのです。政府の減反に従ってたまるか、たとえ減反に応じても何とか生産量を増やす方法を編み出して対抗してやるぞという自分本位の考えを改め、みんなが生きていける、暮らしていける道を探すしかないと考え直しました。結局、減反もみんなが受け入れるのであれば受け入れ、ともに歩みを進めていくしかしかないと覚悟したのです。

――18年度からの減反廃止により、農家がコメを自由に作付けし、互いに競争して品質や価格が決まるようになれば、消費者にとっては望ましいという意見や、ブランド米の輸出に力を入れれば、農家の所得も向上するという声が少なからず聞こえてきます。

その主張の前提になっているのも農家の規模拡大でしょう。しかし、同じことは過去にもやってきているのです。その結果どうなったかといえば、頑張って自分の農地を広げてきたのに、結局は跡を取る者がなく、借りてくれる人もいなくて、往生している人が多いのが現在の日本農業の姿ではないですか。私は自分の農地を大きくしなくて良かったと思っています。

いま、政府は農業の「構造改革」を盛んに主張していますが、あれはゴールなき競争の勧めですよ。規模拡大で量産が可能になれば、本当に持続的な生産を担保する収入が得られ続けるのか、輸出が安定した収益確保につながり続けるかとだれかに問われたら、「はて、どうだろうか」と懐疑的にならざるを得ません。

コメが高く売れそうだとなれば生産量は増えるかもしれませんが、生産過剰になれば必然的に価格は下がります。その下落幅が生産コストを下回るような状況が続くとしたら、自分の家族が食べる自家用は別として、どのくらいの農家が出荷するコメをつくり続けるでしょうか。規模が大きくなればなるほどコスト負担も重くなります。

私たち農家がコメの増産に励んだのは、コメが高かったからです。60年の話ですが、知り合いに消防署に勤めた人がいました。彼の初任給が6000円で、当時のコメ1俵(60キロ)の値段が4000円でしたから、減反が始まる前の10年はサラリーマンよりコメ農家のほうが良かったわけです。それが大きく崩れた背景には、米国の「小麦戦略」がありました。日本に小麦を拠出して、見返りとして「防衛装備」の購入を求めたわけです。要するにミサイルや戦闘機を買わせるという現在も変わらない手法ですね。当然、コメの消費量は減りますから、需要と供給のバランスが崩れ、コメが余るから生産調整しなければならないとなりました。減反の始まりです。

減反に反対した自分が減反廃止にも反対するのは

――その減反に強く反対し、それでも受け入れてきた農家として、今回の減反廃止をどう見ていますか。

政府が減反廃止を既定路線に盛り込んだ2014年に、全国紙の記者が訪ねてきて、「あなたは減反に反対したのに、減反廃止にも反対するのですか」と聞くから、「そうだ」と答えました。なぜなら、この47年間、日本の農家はコメの生産調整を受け入れながら、別の作物の作付けを増やし、国民のための食料生産を続けてきたからですよ。たとえコメが生産コスト割れしても、赤字覚悟でコメを作り続けてきた事実を簡単に否定してくれるな、日本の食料生産を支え続けてきた現実を忘れてくれるなよと声を大にして言いたいという思いが私にはあります。

さらに今回の減反廃止の動きには、自由競争・自由貿易一点張りの論理を自然相手の農林水産業に無理やり当てはめようとする政治的な意図を感じます。この傾向が強まったのは安倍政権になってからです。安倍政権は「農業を成長産業にする」という方向性を打ち出していますが、それはとりもなおさず、国民の生命を守る食料ではなく、もうかる商品を生産しなさいという意味であり、食料自給はやめるということではないかと私は見ています。ですから、やはり減反廃止には賛成できません。この点を消費者には自らの危機と受け止めてもらいたいのですが、専ら農家の問題と捉えられがちなようです。

――減反廃止の前段で、民間企業の農業参入を促進する「特区制度」も導入されました。

それも零細農家をつぶしてしまえという政府の意思の表れではないですか。民間企業の農業参入を推進し、生産効率と国際競争力を高めるといいますが、あれは机上の空論ですよ。その試算には地理的な限界性や気候条件をはじめ、異常気象や災害の発生といったマイナス要因がまったく反映されていません。

政府は減反廃止とセットで民主党政権が取り組んだコメ農家への戸別所得補償制度を廃止するといいます。この制度の目的はコメ、麦、大豆、ナタネ、ソバの価格が生産原価を下回る状態が続いた場合は、その差額を政府が農家に補償し、持続的な農業生産を支えることにあります。それが廃止されれば、コメの場合、17年まで支払われていた10アール当たり7500円の直接支払いがなくなりました。これも家族農業つぶしにつながる政策でしょう。

戸別所得保証制度は欧州連合(EU)が先陣を切って導入したもので、自由貿易への対抗措置です。農産物の輸入自由化が進めば、その価格低下は避けられません。その差額を国民負担とし、域内の家族農業を支えていこうという仕組みです。この動きに日本はまったく逆行しているのです。こうしたなか、平地にあって耕作条件のいい農地だけを集積する動きが着々と進められ、農業関連法の大幅な規制緩和が図られてもいます。いずれも家族農業つぶしをもくろむ動向であり、その一環として今回の減反廃止があると捉える必要があると思います。

「自由業」とすれば「失業者なし」の発想

――平地にある耕作地では、企業の農業参入が本当に促進されますか。

さて、どうでしょうか。少なくとも企業的にやる農家は出てくるでしょうが。私が心配しているのは、そこが経営破たんしたら、次はどうなるかという話です。もはや元には戻れませんよ。この段階で、それこそ株式会社が入ってくるんじゃないですか。資本に国境はないわけですから、米国をはじめ、外資がどんどん入ってきますよ。

外資の進出とともに、雇用形態も大きく変化するでしょう。韓国が米国と2国間の自由貿易協定(FTA)を締結した際、失業者をどう減らすかが問われました。そのとき、選択されたのが、自由業を増やすという対策だったのです。企業と雇用契約を結ぶ会社員が解雇されるか、勤め先の企業が経営破綻すれば、失業者として扱われます。それは会社員だからであって、最初から自由業であれば、失業者としてカウントされることはないわけです。それには企業と個人が請負仕事で契約し、その仕事が終われば契約解除になるだけという米国流の雇用形態にする必要があるわけです。いま、国会で審議されている「働き方改革」はそこにつながっている気がしてなりません。

農業への企業参入促進の背景には、いまの私たちの生活を米国流にがらりと変えてしまうという大きな流れがある点に、もっと注意を向ける必要があると思います。(談)

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