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かつお本枯れ節から一貫生産 自然のおいしさ丸ごと生かす(山彦鰹節)

提携先/みえぎょれん販売株式会社  製造元/有限会社山彦鰹節(三重県志摩市)
『生活と自治』2016年11月号掲載
文/山田 衛  撮影/田嶋雅巳

いまや国内でも希少となった伝統製法で「かつお本枯れ節」をつくり続ける三重県志摩市の山彦鰹節(やまひこかつおぶし)。みえぎょれん販売を介した生活クラブとの提携関係は40年近くになったが、確かな製法から生まれる自然のおいしさづくりにかける思いは色あせない。

手間と時間はかかる節づくり

かつお節は知っていても「本枯れ節」となると、見たことも聞いたこともないという人が圧倒的多数を占める時代になった。薄く削られて個別包装された「けずり節」や「花かつお」を常備している家庭はあっても、大工道具のかんな箱のような削り器で本枯れ節を自ら削り、「けずり立て」を料理に使う人はまれになったといわれて久しい。

かつお本枯れ節は仕上げまでに要する期間が2ヵ月という手間のかかる製法から生まれる。頭と内臓を取り除いたカツオを生切りして煮熟。冷水で冷ました後に骨抜きし、マテバシイなどのまきを燃やしていぶす「焙乾(ばいかん)」を施す。さらに表面を削るなどの成型加工を済ませたら天日で干し、その後に庫内温30度、湿度70%に保たれた室に入れてカビを付ける。そうして一番カビが付いたら再び天日で乾燥させ、また室に入れる仕事を三番カビ付けまで繰り返す。

焙乾を終え、天日干しを済ませてカビ付けしても本枯れ節のように成型加工しないものは「準本節」と呼ばれ、これを薄く削った製品が「花かつお」の名で数多く市販されている。

生活クラブ生協が本枯れ節の共同購入をはじめたのは1978年。利便性と「おいしさ」をアピールする化学調味料類が順調な売れ行きを示し、多くの家庭に定着していくなか、「うそやごまかしのない本物の調味料を利用しよう」を合言葉に組合員による消費材開発が進められ、三重県漁業協同組合連合会(本部・松阪市)の販売会社「みえぎょれん販売」を通して山彦鰹節と出会う。そして誕生したのが三番カビまで付けた本枯れ節の「かつお本節」。その後、80年にはかつお節10%、さば節90%の割合で配合した「混合けずり節」が開発され、87年には準本節を3ミリ幅に削った「かつお細けずり」と、カビ付けをする前の荒節を市販品の花かつおより0.2ミリほど厚めに削った「かつお厚けずり」の共同購入がスタートした。

絶滅寸前の「本枯れ節」

「普段使いにはさば節で十分。これに本節の風味を足したものが欲しいと生活クラブの組合員に言われました。わたしらは半信半疑やったのですが、これがいけた。本当に便利でいいだしがとれるとおおぜいが使ってくれて。東京の人に一本取られた、本当に教わったなと先代社長のおやじとしきりに感心したのが忘れられませんわ」山彦鰹節杜長の山下勝日己(かつひこ)さんが目を細めた。

生活クラブとの提携を決める前の先代・羿三(けいぞう)さん(故人)の口癖は「一般の人が思わん方に走ってしもうで、かつお節なども賞味するという考えが薄らいでいく。わたしら一生懸命つくっとるの、なんで見放されるんか」だった。
これが提携関係を通して「生活クラブの組合員だけは本節が欲しいといってくれた。最初はすぐに信じられんかったが、ほんまにうれしかった」に変わったという。

そんな先代の思いを受け継いだ勝日己さんは「おやじの時代と変わらないのは、化学調味料の簡便さに対する消費者の支持の高さです。さらに悪い流れやなと痛感するのは、本枯れ節をつくれる工場がもはや国内には数えるほどになってしまったという点でしょう」と無念さをにじませた。

現在、国内の代表的なかつお節産地は鹿児島県枕崎市と静岡県焼津市だ。いずれも国内屈指のカツオの水揚げを誇る地域だが、どちらの加工場でも機械化と省力化が進み、手間とコストのかかる焙乾、天日干し、室でのカビ付けという伝統製法で本枯れ節を製造する企業は皆無に等しい。なかには観光客向けのパフォーマンスで焙乾工程を見せたりする事業者もいるが、あくまでも「演出」に過ぎず、基本は量産型の荒節づくりが中心という。

そうした荒節の納品先は大手調味料メーカーなどで、業界関係者からは「まじめにこつこつと本枯れ節づくりをしている職人は軽トラックにしか乗れないが、荒節を量産すれば外国産高級車に乗れる。まさに本末転倒の理不尽さ」という皮肉混じりのやるせない声まで聞こえてくる。

どうして化学調味料の生産に荒節が必要なのか、いわゆる亀の子と呼ばれる化学式が同一ならば、荒節を使わなくても化学調味料はつくれるのではないかと勝日己さんに聞いてみると、「それがだめらしいですわ。どうしてもあの風味が出ん、やっぱり本物が必要やというんです」

*中央写真:山彦鰹節の加工場
*左上写真:切り後、カツオを煮熟。加工場に湯気が立ち上る
*左下写真:丁寧な成型加工で取り除かれたカツオの骨

「削り立て」が一番だから

調味料メーカーがだしのもとやつゆなどに使うのは、国産のかつお荒節だけではなく、輸入かつお節が重宝されているという。その主たる水揚げ地が静岡県清水港で、2014年にはインドネシア、フィリピン、ベトナム、中国を中心に約220万キロ、金額にして13億7000万円のかつお節が輸入された(静岡県ホームページ)

このまま輸入依存度が高まれば、本枯れ節はむろんのこと、かつお荒節を製造する日本の技術が絶えてしまう可能性も否定できない。実際に廃業する同業者が多いなか、「幸いわたしのところは息子が跡を継いでくれました。亡くなったおやじに似とるんでしょうね。ほんに職人かたぎで、手抜きなんてできん男です。うれしいことに、そんな息子を少し年上の工場長と、息子と同い年の社員2人がしっかりと支えてくれています」と勝日己さん。

その言葉を山彦鰹節専務の成彦(なるひこ)さんに伝えると「自分はまだまだ。節づくりは少しでも手を抜けばすぐに製品に表れますし、原魚の状態や毎日の天気や気温に合わせて対応を変えなければなりません。節づくりは奥が深いんですよ」と気恥ずかしげに笑顔を浮かべた。

山彦鰹節では荒節を使った「パックだし」も開発。北海道えりも産の「みついし昆布」と大分県産の「乾ししいたけ」という確かな素材の組み合わせによる自然のうまみ調味料として共同購入している。そのおいしさは組合員の大きな支持を集めている。

近年では本枯れ節を花かつおのように薄く削った消費材がつくれないかといった組合員要望が出されるようになった。この点について勝日己さんは「薄くすればしただけ酸化が速くなり、本来の風味が損なわれます。つまり、おいしくなくなるわけですから、当社ではやりたくないと再三お断りしている次第です」と言う。

パックだしに入れる削り節も、細かくすればするほど濃いだしがとれるが「これも酸化が速まり、節の味がみるみるうちに落ちてしまいます。だから、わたしたちはあえて粉末粒を5ミリ大にしています。製品歩留まりとコストを考えれば、より粒を小さくしたほうがいいのですが、そんなまねもしたくありません」

本枯れ節から一貫生産する技術と力があってこそのかつお厚けずりと細けずりであり、パックだしと山下親子は説いてやまない。その言葉にうそがあるかないかは、家庭でかつお本節を削って確認してみてもらうのが一番だろう。試みにインターネットで調べてみると、多くのメーカーがかつお節削り器を販売している。なかには「上手に削れなくなったら、刃の調整も引き受けます」とメンテナンスまで引き受けるという販売者もいる。またほとんど使わずに、家庭内で「死蔵」されている削り器も少なくないと聞く。試しにあちらこちらに声をかけてみれば、買わなくても手に入れる方法もあるはずだ。時間があるときの楽しみの一つとしてトライしてみる価値十分と思うが、いかがだろうか。

*右写真の荒節にカビ付けし、成型加工後に本枯れ節に仕上げる


◆消費材の活用法

─削り器で「うまい!」を楽しむ─

撮影/魚本勝之 文/山田 衛 

買ってはみたが使わない、持っていても無駄だからとかつお節削り器を頂戴した。さっそく試してみようと思ったが、生活クラブの「かつお本節」の取り組みがすぐにはなく、申込みができるまで待った。

ようやく届いた本節を削ってみると、これがいけない。大工さんが材木の表面を削るかんながけのように、スッと薄い削り節がさもなくできると思っていたのに、手にした本節が刃に引っかかるわ、何とか削れても粉になるばかりで、情けないやら腹が立つやらの繰り返したった。


聞けば、この段階で多くの人が挫折し、かつお節削り器は台所の片隅ないしはめったに明けられることがない収納場所に収められ、二度と使われずに眠り続ける「死蔵品」となるという。たとえ、ここで断念しても、生活クラブには「かつお厚けずり」に「かつお細けずり」もあり、かつお本節を使った手軽な「パックだし」がある。

そう思ってはみたものの、どうにも口惜しさを拭い去ることができない。

そこで、どうすれば削り器でかつお本節がうまく削れるようになるのかをあちらこちらで聞いてみた。「まずは刃を研ぎ直しなさい。研いだら刃の出し方を調整すべし」と、アドバイスしてくれる人がいた。言われた通りにやってみた。

刃の研ぎ方も我流なら、調整も素人の勘だけが頼りという何とも心もとない挑戦だったが、やってみると大きく事態は好転した。「くれぐれも刃は出し過ぎない」という調理のプロの助言が効き、何とか削り節らしい状態になった本節が削り器の受け皿にたまるようになった。汁もののだしにしてよし、そのまま白飯にふりかけてしょうゆを垂らしただけでもよし。これぞ削り立てを味わう楽しみと知った。こうなるとさらに欲が出る。もっと薄く、さらにスムーズに削りたいと思うようになってきた。


はて、どうしたものかとインターネットで調べてみると、「するめが軟らかくなるのと同じ理屈だが、本節を少し火であぶって削ればいい」とあった。すぐに試してみると、なるほど本当にうまくいった。「削る前に蒸気に当ててやる」という方法も紹介されている。

確かに手間がかかる。だが、それだけに「うまい」。うまいし妙に楽しい。いささか気負った物言いで恐縮だが、人が手間暇かけてつくりあげた労作を大事にいただいているような(自己満足には違いがないが)意味ある行為にも思えてくる。


価値観の押しつけといわれても仕方がないが、そんな喜びを嫁いだ娘たちや家を出た息子に伝えたくて、たまに家族が集まれば、削り器使いの腕前を見せたくなる。このごろは4歳と2歳の孫を相手にかつお本節を削る機会が多くなった。

孫たちは見たこともない削り器と堅い木片のような本節に興味津々だ。「もう少し大きくなったらやってみるか」とたすねると「うん」と瞳を輝かせ、削りたての本節を「うまい、うまい」と口に運んだ。

味覚の伝承などと言挙げする気はまったくない。これも暮らしのささやかな楽しみの一つであり、心豊かに生きていくすべの一つと知った次第だ。

『生活と自治』2016年11月号の記事を転載しました。

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