本文へジャンプする。
本ウェブサイトを利用するには、JavaScriptおよびスタイルシートを有効にする必要があります。
生協の食材宅配【生活クラブ】
国産、無添加、減農薬、
こだわりの安心食材を宅配します。
ここからサイト内共通メニューです。

生で食べる鶏卵だからこそ


 
生活クラブ連合会の鶏卵の主要な提携生産者である農事組合法人「会田共同養鶏組合」(以下、会田養鶏)は設立初期から飼料にこだわり、自前の飼料工場まで建設した。飼料用米の使用にも積極的に取り組み、昨年度からは国産トウモロコシの使用を始めるなど飼料の国産化を図るとともに、風味豊かな鶏卵づくりを追求している。

自前の工場で飼料が明らか

黒壁と白壁のコントラストが美しい松本城(長野県)の城下から車で小一時間行った山あいに、今年で創業60周年を迎えた会田養鶏はある。会田養鶏は生活クラブ長野をはじめ関西地域の生活クラブ、福祉クラブの鶏卵を生産するほか、温泉たまごや一部地域に平飼いたまごを供給している。

生活クラブ長野との提携は古く、1972年まで遡(さかのぼ)る。当時の生活クラブ長野は生協設立前で、諏訪湖の浄化運動に取り組んでいた。持続的な活動にしようと鶏卵やせっけんの共同購入が検討され、その鶏卵の仕入れ先が会田養鶏だった。
「トラックに数ケースを積み、まだ舗装されていない国道を運んだ記憶があります」と、会長の中島学さんは懐かしそうに振り返る。生活クラブ長野は4年後の76年に生協として発足した。

会田養鶏は生活クラブの自主基準に基づき、国産鶏種の「さくら」「もみじ」の産んだ鶏卵を取り扱っている。飼料は遺伝子組み換えではないトウモロコシや、国内自給力を高める飼料用米を与えているが、大きな特長のひとつに自前の飼料工場を保有することがあげられる。それも税関の第一承認を受けた工場で、鶏卵業界では極めて稀(まれ)なことだ。建設は72年6月で、「飼料の中身を明らかにしよう」と考える生活クラブ長野に共鳴してのことだった。
「飼料はそれまで飼料会社から購入していましたが、穀類や植物性油かす類などと『表示票』に書かれているだけで、飼料会社に原材料を問い合わせても答えてくれませんでした。だったら自分たちで飼料を作ろうと決意したのです」と中島さん。

建設費は約2億円で、同業者からは「何をやっているんだ」と半ばあきれられたという。だが、会田養鶏はアミノ酸組成など鶏に必要な栄養について研究を重ね、原材料の調達に奔走した。
「長野県は内陸部なのでどの港からも遠く、飼料が全国で一番高い地域でした。それでも自らトラックを出して原材料を買い求めたおかげで、コストダウンが図れました」
 
月間約1100トンの飼料を製造する自前の飼料工場

めざすはオール国産飼料

国産の追求や鶏の健康、鶏卵のおいしさを考えて、飼料は22種類以上を配合する

鶏卵は長い間、「物価の優等生」といわれてきた。2008年に起こった輸入飼料高騰の際も鶏卵価格は低迷したままだったので、中小の鶏卵農家は廃業に追い込まれた。

会田養鶏の組合長、上村(かみむら)博文さんは「当時は鶏に与える飼料の約65%が輸入トウモロコシだったので、高騰は経営に大きな打撃でした。飼料自給率の向上と循環型農業の確立は生活クラブの方針とも一致したので、これが契機となって、飼料用米に取り組み始めたのです」と明かす。

飼料用米を与え始めたところ、鶏には砂肝という食べたものをすりつぶす独特の器官があるので、モミのまま与えても消化することがわかった。ただモミはガラス繊維を含み、消化するために水を多く飲むので軟便になる傾向がある。会田養鶏はモミを除いた玄米なども与え、現在では輸入トウモロコシの飼料に占める割合を約23%にまで減らすことができている。
「飼料用米に取り組んだおかげで、昨年からの輸入飼料の高騰の影響をかなり抑えられたと思います」と上村さん。魚粉などをふくめ、飼料のうち国産原料の割合は約4割という。

会田養鶏は国産トウモロコシについても、22年度から取り組み始めている。会田養鶏には「国産飼料100%で育った鶏の卵がほしい」との問い合わせが、ここ数年寄せられている。同じ頃から北海道などでの飼料用トウモロコシ栽培の話を聞くようになった。「国産100%は夢ではないかもしれない」と上村さんが思い始めた矢先に、三重県で栽培を始めるところがあると聞き、契約を即決した。

その生産者は㈱小林農産で、昨年から栽培を始めたのだが、いきなり日本初の二期作に挑んだ。東京ドーム4個分に当たる約35ヘクタールの農地で、春に種をまき夏に収穫した一期作は約88トンと上々の出来だったが、その後の二期作は収穫ゼロという惨憺(さんたん)たる結果だった。
 
組合長の上村博文さん

風味のよい鶏卵づくり

小林農産の出口裕也さん(左)と奥山康正さん。GPS機器を搭載し、自動で直進するトラクターで種をまく
 
小林農産が購入した種まき機の内部。穴の開いている部分に種が吸い付き、一粒ずつまけるようになっている
「二期作は8月に種をまいた直後に十日間も雨が降り、その後は台風の襲来もあって水害で実がなりませんでした」と、社長の小林秀行さんは語る。
小林農産は400ヘクタールという広大な農地で、主に食用の米を栽培している。トウモロコシ栽培は種まきや収穫の時期が稲作と分散できる点に注目した。また収穫後の葉や茎を農地にすき込めば土がよくなり、根が地中深く張ることで水はけがよい土になる。機械も米や小麦に使う熱風式乾燥機を共用できる。種まき機とトウモロコシ専用の収穫機は新たに購入したが、いずれも一般のトラクターやコンバインに取り付けるタイプなので初期投資は少なく済んだという。

乾いた土地を好むトウモロコシにとって雨の多い三重県は必ずしも「適地」とはいえないが、トウモロコシには栽培に手間がかからない魅力もあり、今年も栽培を行う。
「7月に種をまいて11月に収穫する一期作にします。栽培期間がやや長くなるものの、たくさん収穫できる品種のトウモロコシに変えてチャレンジします。やってみないと何も始まりません」と、小林さんは意気込む。

飼料工場ではトウモロコシの数量を厳密に管理しなければならない。輸入の飼料用トウモロコシは畜産振興のために「無税」とされているが、コーンスターチなど食用での輸入分には関税がかかる。飼料から食用へ転用する脱税行為を防ぐため、飼料工場は税関の承認を受けなければならないのだ。会田養鶏の飼料工場は二つの棟に分かれており、輸入トウモロコシを食用に転用できないようにあらかじめ魚粉と混ぜた「二種混合」を専用棟で作る。それを別棟に移し、飼料用米や大豆かすなどと合わせて飼料を完成させるという手間をかけている。

また輸入トウモロコシと国産を飼料工場で同時に扱うことはこれまで禁止されており、国産の飼料用トウモロコシ普及にとって障壁のひとつだった。
上村さんは「6月に税関が来た時に、輸入と国産のトウモロコシを混ぜて飼料を製造できると伝えられました。具体的な方法などはまだわかりませんが、規制が緩和されるようです」と話す。
飼料工場で輸入と国産を一緒に使用することへの規制は、生活クラブやトウモロコシ生産者からも問題とされており、飼料の自給力向上に向けて一歩前進したことになる。

飼料の原材料を明らかにするために自前の飼料工場を建て、飼料用米や国産トウモロコシを使用するなど、次々と飼料に対する取り組みを進めてきた会田養鶏だが、上村さんは「安全安心だけではなく、おいしさも追求しないといけない」と語る。とくに日本は鶏卵を生で食べる習慣があるので風味が大切だ。ごま油を搾った後のかすを飼料として与えると、鶏卵の香りが増すという。天然の菌や酵素も研究し、食べておいしく健康に寄与する鶏卵づくりを会田養鶏はめざしている。
 

餌をついばむ国産鶏種の「さくら」

撮影/高木あつ子
文/本紙・橋本 学

ウイルスとの闘い

昨年12月中旬に㈱生活クラブたまごの岡部農場(埼玉県)で高病原性鳥インフルエンザ(以下、鳥インフルエンザ)が発生し、東京や神奈川、埼玉など8地域の生活クラブへの鶏卵の供給がストップした。生活クラブ連合会は他の鶏卵の提携生産者に協力を要請。それに応えて会田養鶏は、鶏卵の欠品が続く地域の生活クラブへ1月上旬から供給を始めた。

「日頃からの信頼に応えるためにも、生活クラブの組合員のみなさんへ届けることを最優先にしました」と組合長の上村さん。スーパーなどとの取引を中止して、生活クラブに供給したと明かす。

供給に向けた細かい調整をする時間もないまま決断したので、会田養鶏の現場では多少の混乱が生じたと苦笑する。
「生活クラブ長野、関西地域の生活クラブ、福祉クラブ向けに加えての出荷だったので、鶏卵が足りないこともありました。各担当者で取り合いになり、結局、もう一度鶏舎に不足分を取りに行くようなこともありました」

生活クラブたまごが飼育していたのは会田養鶏と同様に国産鶏種の「さくら」と「もみじ」だが、鶏卵を産み始める120日齢の「大ビナ」までは他の養鶏農家に飼育を依頼していた。しかし、鳥インフルエンザの発生により、大ビナが引き取れなくなってしまった。その受け入れ先を探すのにも会田養鶏は尽力した。

「鶏卵農家の仲間に声をかけて2カ所が受け入れてくれました。そのうち一つは会田養鶏の分場との位置づけになりました。いずれも私たちが製造した飼料を使用しています」と上村さん。会田養鶏は国産鶏種「もみじ」を平飼い用に飼育しているので、大ビナの一部を平飼い用に受け入れた。
会田養鶏は鳥インフルエンザと新型コロナウイルスという見えない相手に対し、徹底的な衛生管理で対応している。

職員には農場に着いたら場内用の服に着替え、各鶏舎に入る際はさらに専用の長靴と服に替えることを求めている。一日に6回くらい着替えるのだが、冬はジャンパーから農場用のウインドブレーカーに替えるだけでも、外気温はマイナス約10度なので身体にこたえる。

「消毒のために農場が真っ白になるくらい石灰もまきます。それでも鳥インフルエンザは防ぎようがなく、いつどこで発生しても不思議ではありません」と上村さんはため息をつく。一般社団法人「国際鶏卵産業協議会」の理事も務めており、鳥インフルエンザに有効なワクチン開発に期待をかける。だが感染経路の一つは渡り鳥であるため、日本だけではなく、ロシアや中国、ヨーロッパ、米国など世界中が協調して対応しないと予防は難しいという。

10月になると渡り鳥が飛来する。上村さんをはじめ会田養鶏や鶏卵生産者の緊張の日々が始まる。
 
撮影/高木あつ子
文/本紙・橋本 学
 
『生活と自治』2023年9月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2023年9月20日掲載】
 

生活クラブをはじめませんか?

42万人が選ぶ安心食材の宅配生協です

生活クラブ連合会のSNS公式アカウント
本文ここまで。
ここから共通フッターメニューです。
共通フッターメニューここまで。