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2009年3月17日
飼料自給への挑戦 [3] 生活クラブ連合会発行/自給市場vol.8より
“国産食”を“ブーム”に終わらせない ― 予断は許されない世界の穀物情勢 ―

バイオエタノール・ブームに乗って天井知らずの値上がりが続いていた穀物と原油の価格が下がり始めた。飼料や資材価格の高騰に喘いだ国内畜産農家にとって果たしてこれは朗報なのか?
生活クラブがかねてよりPHF/NON-GMO(収穫後農薬不散布・非遺伝子組み換え)畜産飼料の海外調達で協力いただいている、全農・畜産生産部の川崎浩之課長にお話を伺った。
―国際穀物相場は落ち着いてきたと伝えられていますが、今後の見通しは楽観してよいものなのでしょうか?
川崎 ご質問にお答えする前にこの間の穀物情勢全体を振り返っておきたいと思います。ここ数年来の国際穀物相場の急騰は、けっしてエタノール需要だけがもたらしたものではありません。中国・インド・ロシア等大きな人口を抱える新興国の経済発展に伴う需要の増大や、毎年のように世界各地を襲う干ばつや水害がもたらす減産。さらにこれに拍車をかけたのが、そうした潮流を読みながら有利と思われる先物商品に大量の資金が流入し風向きが変われば離れていく、いわゆる国境・品目を越えて移動する投機マネー。エタノール・ブームはそうしたより大きな世界の構造変化の中で起きた一幕でした。
― そうした世界の流れは今も変わっていない、と?
川崎 はい。確かに米国農務省は、世界の穀物が今年は豊作であったことと、急拡大を続けてきた世界の穀物需要はエタノール用途も含めて短期的にはブレーキがかかるだろうと発表しています。穀物相場から投機資金が逃げたこともあり穀物価格は下がってきました。しかし穀物生産や供給がこれで長期的に安定すると考えるのは早計でしょう。
世界の穀物はいつ足りなくなってもおかしくないという認識が必要
― 不安定要因としては何があるのでしょうか?
川崎 まずは、昨年のように世界的に天候パターンが理想的に推移し豊作が毎年続くことはありえないこと。たとえば、南半球は季節が逆ですから豪州などでは作付けが終了した今、穀物が生育している時期なのですが、干ばつ懸念に一喜一憂している状況です。次に、生産国の農家の間では、限られた耕地面積に大豆を作付けるかトウモロコシを作付けるかの“ 作物間競争” のような現象が始まっていて、結局は、両方とも相場はある線を維持するのではという観測もあります。
― 米国や豪州の大規模畑作地域では土壌流出・地下水枯渇・塩害などで面積拡大や生産性は既に頭打ちの状況とか... “ 作物間競争” の背景にはそうした生態系の限界がありそうですね。
川崎 そうです。また三番目として、需給が逼迫した際の各国の穀物輸出規制です。昨年多くの輸出国が輸出規制を行いました。今後も需給逼迫時には、多くの輸出国が自国の食糧およびエネルギー(バイオエタノール)安全保障を優先することは折り込んでおかなければならないでしょう。
さらに重要なのは、世界のトウモロコシ需要の伸びが生産量の伸びよりも大きいため、10 年前に30%前後あった在庫率は半減し、安全水準といわれる17%を割り込んだレベルにあることです。世界の主要産地での干ばつや作付け・需要動向しだいでは、簡単に需要逼迫してしまうレベルが続いているのです。世界需要も目下の不況が回復すれば、長期的な拡大基調であることに変わりはありません。そういう意味では世界の穀物が需要に対して不足しているという基本認識を持ち続けるべきでしょう。
全農は、米国の穀物集荷輸出子会社や世界の農協・集荷組織と連携し、安全で価格的に競争力のある穀物および、飼料原料を安定的に調達するネットワークを構築してきました。品質安全性や安定供給が揺らぐことがあってはならない、全農が多国籍企業に依存せず「自らの調達力」にこだわる理由です。
長期過ぎたコスト負担に国内畜産農家は疲弊
― なるほど。しかし同時に、あまりにも輸入に依存しすぎた我が国の畜産のあり方そのものも根本的に変えていく必要がありますね。
川崎 まったくその通りです。国内自給飼料や飼料用米および食品副産物の飼料への活用等が必要です。生活クラブの飼料用米の事例は成功例ですが、現実は制度やインフラの整備に加えコスト課題が多く、中長期ビジョンを策定し政策的に取り組まなければなりません。私たちも連携して積極的に進めて行きたいと考えています。
― ところで現在の国内畜産業の存続のためになくてはならないしくみに「飼料価格安定基金」がありますが、その状況についてはいかがですか?
川崎 輸入原料主体の配合飼料の価格は四半期ごとに改定されますが、穀物相場や為替の影響を受けて大きく変動する可能性を持っています。価格改定が生産者の経営にもたらす影響を少しでも緩和しよ
うと、飼料供給者(メーカー)と生産者とで積み立ててきたのが「配合飼料価格安定基金」です。四半期の価格が直近1年の平均を上回るようになったら、この基金を取り崩してその差額を生産者に支払うという仕組みです。
― この数年間のように飼料価格がどんどん上がる時期には生産者にとってはなくてはならないしくみですね。
川崎 例えば2006年秋から昨年10~12月期までの2年間で配合飼料価格は25,000円/トン(累計)も上がってしまいましたが、その間基金からの補てんのおかげで生産者負担額は実際の値上げ額より軽減されており、累計でも17,000円/トン強にとどまっています。しかしあくまで「差額補てん」ですから、2000年以降2~3倍近く上がった穀物価格に生産者の経営は本当に追い詰められました。
― コストが上がっても、小売業界も過当競争で食品価格の値上げになかなか応じません。“ 勤労者世帯の生活防衛” が錦の御旗になって。結局生産者がそれらを負担するという構造ですね。穀物価格の最新動向と見通しはいかがですか?
川崎 飼料価格をめぐる動向もようやく局面が変わり、最新の09年1~3月期には過去2年から反転してマイナス11,878円/トンと大幅な値下げとなります。ただし、値下げ後の価格が過去1年間の平均を下回るため、基金から生産者への補てん金の交付はなくなります。その結果、生産者負担額はマイナス4,200円/トン程度の軽減にとどまり、2006 年秋に比べると依然13,000円/トン高い水準となっています。
― 局面は変わっても配合飼料価格はまだまだ高く、生産者の経営は依然として厳しいのですね。
川崎 大変なのは生産者だけでなく「基金」の経営も苦境にあります。未曾有の価格高騰に対応した補てん金交付で積立金を取り崩し切ってしまい、その後は金融機関などからの借入で何とか生産者を経営的に支援していたという実態があるのです。今後はしばらく借金の返済を行う分だけ生産者への補てん財源が目減りする可能性がありますが、それでも安定基金が生産者の経営にとって重要な仕組みであることに変わりはありません。
鍵を握っているのは消費者―適切な価格への理解と消費による支持表明を!
― 国際的な穀物調達の第一線でお仕事をされている立場から、いま私たちに問われていることは何だとお考えでしょうか?
川崎 先ほど述べられていた小売価格の問題は大きいです。私を含めて買う側の理解が根本的に変わらなければ、そうした構造も変わらないでしょう。《安くて安全・安心な食べもの》―食の安全・安心を揺るがす問題が昨今増えるなか、そうした声はますます強くなるでしょう。
この間生産者は、生産性向上やコスト削減などに取り組んできました。しかしながら生産者側の努力の限界を超える状況が続いています。
日本の生産者は世界で最高水準の品質と安全性を有する畜産物を作ることができます。それにかかるコストは買う側も理解しみんなで負担する必要がないでしょうか。一人でも多くの消費者にこの点についてのご理解をいただきたい。国内の生産基盤の維持が困難になり、飼料ばかりか畜産食品そのものまで全面的に輸入に依存しなければならなくなるとしたら、それは由々しき事態です。生産者の高齢化・後継者問題なども考え合わせれば、時間的猶予はあまりないと考えるべきかも知れません。
―“ 経済不安” の声に必要以上に浮き足立つのではなく、いま何に優先してお金を使うべきか―個人も国も長い時間軸で冷静に考え行動するときですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。
以上